核酸医薬のDDSと脂質ナノ粒子LNP
こんにちは、ありえってぃです。
本日は核酸医薬の効果を十分に発揮させるための、核酸医薬のDDS(Drug Delivery System)と、よく用いられている脂質ナノ粒子LNPについて紹介していきたいと思います。
核酸医薬に興味がある方や、よく聞くLNPってどんなものなんだろうと気になった方は是非ご一読いただきたいので最後までお付き合いください。
(厳密性に欠ける部分もあるかと思いますが、あくまで概念を伝えたいのでご容赦頂きたいです。)
コンテンツ
・核酸医薬の標的への送達における問題点
・正電荷を持つキャリア
・中性電荷をもつキャリア 脂質ナノ粒子LNP
核酸医薬の標的送達における問題点
それでは、核酸医薬の標的送達における問題点から見ていきましょう。
まず、薬が細胞内にどのように入っていくかというと、
「薬物は濃度勾配に従って単純拡散で細胞内に入っていく。
また脂溶性の高い薬物の方が細胞膜との親和性が高いため細胞内に入りやすい。」
というのが一般的な薬物の細胞への取り込まれ方です。
ただこれは低分子化合物における理論であって、核酸やタンパク質など分子量が大きくなるとこの理論は成り立ちません。
核酸は負電荷を有し更に分子量が数千~数万に至る分子ですので、細胞外に核酸があったとすると、負電荷を有する細胞膜と電荷的に反発しますし、そもそも大きすぎて細胞膜の間を透過できません。
しかし、核酸医薬の主な作用部位は、細胞内の細胞質に存在するmRNAです。
(核酸医薬の基本については以下の記事参照↓
他にも作用部位はありますが、今回は簡便化のためアンチセンスODN、siRNAを想定しています。)
したがって核酸を医薬品として用いようとすると、標的細胞に取り込ませ、更に細胞質にいかに送達するかが鍵になります。
以下で、その送達戦略を概説したいと思います。
正電荷を持つキャリア
先ほど核酸が負電荷を帯びている比較的大きな分子であるために細胞内に取り込まれにくいことが問題点であると説明しました。
そこで、負電荷を有する核酸を、過剰の正電荷を持つキャリアに封入することで細胞取り込みを向上可能であることが知られています。
これは、核酸の負電荷が和らぎ、正電荷を帯びた複合体が形成されたことで、負電荷を持つ細胞膜と相互作用し、細胞内に取り込まれるようになるからです。
詳しくは分かっていないのですが、この方法を用いると細胞膜を直接透過、あるいはエンドサイトーシスを介して細胞質に核酸を送達可能であることが知られています。
(未だに取り込み機構に関しては様々な意見があるようです。)
しかし、この方法ではin vitroで細胞内へ核酸医薬を送達することは出来ても、in vivoで生体内に投与するには不適切でした。
なぜなら、正電荷を有するキャリアは、
・細胞障害性、毒性がある
・負電荷を有する細胞膜にすぐ取り込まれるので、投与後初回に通過する臓器(肺や肝臓)に殆ど取り込まれてしまう。
・血中のタンパク質等と非特異的に結合し凝集体を作り、免疫原性を生じる。
といったデメリットがあったからです。
中性電荷をもつキャリア 脂質ナノ粒子LNP
そこで、適度に細胞に取り込まれやすいが、正電荷を帯びていない中性の電荷を持ったキャリアを用いようとする研究が進んできました。
そしてその代表格が流行りの
pH応答性脂質を用いた脂質ナノ粒子(Lipid nanoparticle: LNP)
です。
(以後はpH応答性脂質を用いたLNPを、LNPと表現します。)
これは
「pHが生理学的条件(pH=7.4)だと中性ですが、pHが低くなると正電荷を持つ脂質」
を利用しています。
(アミノ基を含んだ脂質です。)
pHが低い条件で正電荷を帯びる脂質と、核酸とを混合し静電的相互作用で複合体を作製します。
(ただしpHを下げ過ぎると核酸の負電荷も消失するので、適度なpHの下げ幅で正電荷を有する脂質を用いてるようです。)
そしてこれを再び生理学的条件に戻すことで中性の核酸封入LNPが完成します。
(不思議ではありますが、壊れたりしないようです。)
この中性キャリアであるLNPの優れているのは、
・細胞取り込みを適度に保ちながら、
・生体内で優れた体内動態と低い副作用を示し、
・細胞にエンドサイトーシスで取り込まれた後、核酸のエンドソーム脱出まで行ってくれる
点です。
基本的に中性のキャリアは細胞にエンドサイトーシスによって取り込まれるとされています。
その後エンドサイトーシスされた粒子はエンドソーム/リソソーム経路に沿って分解されてしまいます。ただ、核酸はエンドソームではなく、あくまで細胞質に送達する必要があるので、核酸のエンドソームからの脱出を必要とします。
LNPはエンドソームの酸性pHに応じて膜構造が変化しエンドソーム膜を傷害することで、核酸を細胞質に送達することも可能にします。
(万能すぎる)
従ってpH応答性の脂質を用いた理由としては、核酸との複合体を作るためだけではなく、エンドソーム脱出も見越していたんですね。
まとめ
・核酸医薬は負電荷を持ちサイズが大きいため細胞膜を透過しない
・正電荷を有するキャリアを用いると、in vitroでは細胞内に導入できるが、in vivoの投与には適切ではない。
・中性電荷のキャリアを用いることで生体内投与も可能になり、更にpH応答性の脂質を用いた脂質ナノ粒子(LNP)はエンドソーム脱出も可能にし、効率的に核酸を細胞質に送達することが出来る。
実際に初めてのsiRNA医薬としてFDAの認可を受けたpatisiranもLNPに搭載されています。
以前にも記述した通り核酸医薬はデリバリー方法が出来てしまえばあとは核酸の配列を変えるだけで薬にすることが出来るので、他の疾患にもすぐに応用できるものと思われます。
(核酸医薬の基本に関しての記事です。もしよろしければ↓)
それでは今回はこのあたりにしたいと思います。
最後までお付き合い頂きありがとうございました。