がん組織ターゲティングとEPR効果
こんにちは、ありえってぃです。
やっと修論もひと段落したので久々にブログを書いています。(笑)
今回はがん組織へのデリバリー方法としてよく耳にするEPR効果についてまとめましたので、最後まで読んで頂けると幸いです。
コンテンツ
・がん組織ターゲティングの重要性
・EPR効果とは?
がん組織ターゲティングの重要性
ご存知の通り抗癌剤は副作用の重い薬物です。
基本的に抗癌剤は細胞を殺す薬物であるため、正常な組織に分布してしまうとその組織に悪影響が及び副作用が出てしまうからです。
そこで
「がん組織だけに抗癌剤を送達出来れば副作用なくがんの治療ができるはずだ」
というのががん治療におけるDDS(Drug Delivery System)基本の考えとなります。
(DDSに関する記事はこちら)
そしてがんにおけるDDSの中でも有名な方法が「EPR効果を利用した受動的ターゲティング」になります。
EPR効果とは?
EPR効果とはEnhanced Permeability and Retention効果の略称であり、「透過性と滞留性の増強効果」とでも訳せるかと思います。
一言でまとめると、
「一定以上のサイズを持つ高分子が、がん組織に効率よく蓄積される効果」
といえるかと思います。
原理はこちらの図をご覧ください。
がん組織は正常の組織と比較して、大きく2点異なります。
1つ目が、血管が非常に脆く、スカスカであるという点です。
このため、抗がん剤などの低分子化合物は正常組織、がん組織のどちらにも移行するのに対し、高分子化合物は正常組織に移行しにくく、がん組織には移行しやすいというコントラストが生じます。
血管の透過性が上がっているという見方もできるかと思います。
2つ目が、リンパ組織があまり発達していないという事です。
正常組織と比較してがん組織のリンパ組織はあまり発達しておらず、そのため組織からのリンパを介した薬物排出が減弱していることが知られています。
これらの性質の違いを利用して、抗癌剤を高分子キャリアに搭載することで、正常組織には移行しにくいが、がん組織に移行しやすくさらにがん組織に滞留する、というターゲティングが出来るようになるのです。
(厳密には高分子キャリアの条件として血中滞留性が長いことが重要です。)
ターゲティングというと、標的細胞のある表面受容体に対するリガンドを修飾することで可能になる、というイメージがあるかと思います。
このようにリガンドを修飾して標的指向性を上げるのはアクティブターゲティングと呼ばれ、EPR効果を利用したターゲティングなどのように薬物の分布指向性を利用するものを受動ターゲティングと呼びます。
一般にはアクティブターゲティングが重要であるように思われますが、そうではありません。
なぜなら、考えてもらえばわかると思いますが、標的細胞へ薬物を届ける際には、まずその細胞がいる組織に移行し、その後標的細胞の表面分子をリガンドが結合してターゲティングが初めて成し遂げられるからです。
すなわち、受動ターゲティングで組織選択的に移行したのちに、アクティブターゲティングで標的細胞に結合することになるので、組織移行性を気にせずリガンドを修飾してもあまり意味がないのです。
従ってがんのDDSを考える上ではこのEPR効果は非常に基本となるものでした。
ただ、ここまで書いといてなんですが、残念ながらEPR効果はマウスモデルでは再現されるものの、人における臨床では再現できない、というのが分かってきました。(泣)
このことに関してはまた書いていきたいと思います。
まとめ
・がん組織の①欠陥が脆弱、②リンパ組織が未熟であるために、高分子キャリアががん組織に蓄積することをEPR効果と呼ぶ
・EPR効果はがん組織ターゲティングの基本である
以上が今回の記事になります。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。