核酸医薬品とは? 作用機序とメリット・デメリット
こんにちは、ありえってぃです。
最近オプジーボなどの抗体医薬品や、間葉系幹細胞などの細胞医薬品が新しいモダリティとして医薬品になってきています。
今回はその中でも核酸医薬について紹介していきたいと思います。
基本的なところをまとめたので、ちょっとでもご興味があれば覗いていってください!
コンテンツ
そもそも核酸医薬とは?どんな種類があるの?
それでは、核酸医薬とは何ぞやという事から始めていきましょう。
核酸といえば、「二重らせん」というイメージや、「DNAからmRNAが転写されて、そのmRNAがタンパク質に翻訳されて、、」という事を思い浮かべる人が多いかと思います。
それがいったいどう薬に応用されているのでしょうか?
核酸医薬には様々な種類があるのですが、今回は主に使われている種類を扱います。
一言で言うと、
ある標的遺伝子のmRNAに相補的に結合し、タンパク質の翻訳を抑制する
ことで薬として機能します。
どういうことかというと、一般に薬の標的となるタンパク質は、ゲノムDNAからmRNAが転写されて、そのmRNAが翻訳されることで作られています。
低分子医薬品や抗体医薬品が出来上がった「タンパク質」を標的として作用を阻害しているのに対して、核酸医薬品はタンパク質のもととなる「mRNA」からの翻訳を抑制することで、結果として標的タンパク質を阻害しています。
ご存知の通り核酸はAとT(U)、GとCがペアとなって相補鎖を形成します。
この性質を利用して、標的タンパク質のmRNAの配列に対して、相補な配列の核酸を用意することでタンパクの発現を抑制できるのです。
それでは、核酸医薬品にはどんな種類があるのでしょうか?
先ほど述べたように、種類は様々なのですが、このmRNAの翻訳を阻害するという機序を持つものは大きく分けて2つあります。
1.アンチセンスDNA
そのうちの1つがアンチセンスDNAと呼ばれるものです。
これは20~30塩基ほどの一本鎖DNAで、標的タンパク質のmRNAの相補な部位に結合すると、リボソームの翻訳を阻害したり、RNaseHという酵素(DNAとRNAの二本鎖を認識する)によってRNAが切断されることで、mRNAからのタンパク質翻訳が抑制されます。
2.siRNA
もう一つがsiRNA(small interfering RNA)と呼ばれるものです。
生物研究されてる方は遺伝子ノックダウンでよく使うのでご存知かと思います。
これは21塩基対程度のの二本鎖RNAで、細胞内でRNA干渉と呼ばれる機構によって標的mRNAを切断することが出来ます。RNA干渉とは、まずsiRNAの片方の一本鎖とRNA切断酵素(Ago)が複合体を作り、一本鎖RNAをガイドとして、そのガイドに相補なmRNAをAgoが切断する、という現象です。
以上が主な核酸医薬品の紹介でした。ひとまずはアンチセンスDNAとsiRNAを理解しておきましょう。
核酸医薬のメリット、デメリット
核酸医薬品がどんなものかがおおよそ分かって頂けたかと思います。ただ、だから?何がいいの?という問に答えられなければ、薬として使うメリットはありません。そこで、核酸医薬のメリット、デメリットを紹介していきたいと思います。。
メリット
・標的特異的に抑制できる。
・核酸の塩基配列を変えるだけで様々なタンパク質を標的に出来る。
・有機合成できるので品質管理しやすく、製剤としての均一性が担保される。
それではまずメリットを見ていきましょう。
・標的特異的に抑制できる。
核酸の相補鎖形成は非常に厳密であることが知られています。従って20塩基以上の核酸医薬が相補に結合出来るmRNAの配列は、全ゲノムの中でも非常に限られているので、ほぼ特異的に標的のタンパク質を抑制できます。このため副作用の低減も期待できるのが核酸医薬の大きな強みになります。
・核酸の塩基配列を変えるだけで様々なタンパク質を標的に出来る。
そして核酸医薬の非常に大きなメリットとして、核酸の塩基配列を並び替えるだけで薬になる、という事です。
通常低分子化合物の創薬は、ある標的タンパクがあったとして、そのタンパクに結合するような化合物をスクリーニングして、そのシード化合物を最適化して、、
といった過程を辿るかと思います。
しかし、核酸医薬はA,G,C,T(U)の配列の並び替えをするだけで薬になるのです。
標的タンパク質が決まったら、その遺伝子の配列を調べて、それに相補な核酸を作るだけで良いのです。(もちろん配列の最適化をする必要はありますが、それもソフトですぐに調べることが出来ます。)
・合成できるので品質管理しやすく、製剤としての均一性が担保できる
抗体や細胞医薬品で問題になるのが、品質管理です。薬としては、同じ製品であれば、同じように効果が発揮されなければいけませんが、抗体、細胞医薬においてはどのように製剤としての均一性を保つかが問題視されています。
しかし、核酸は従来の低分子化合物のように有機合成して作製可能なので、低分子化合物同様比較的品質管理がしやすいというメリットもあります。
デメリット
・細胞外で非常に不安定である。
・細胞膜透過性が低い。
非常に薬として魅力的な核酸医薬ではありますが、もちろんデメリットもあります。
・細胞外で非常に不安定である。
細胞外にはたくさんのヌクレアーゼ(核酸分解酵素)が存在しており、DNAやRNAは比較的直ぐに分解してしまいます。
(RNAを実験で使ったことがある人は分かると思いますが、RNAは非常に分解されやすいですよね。)
・細胞膜透過性が低い
細胞膜は負電荷を帯びている一方で、核酸もリン酸基によって負電荷を帯びているため非常に細胞膜透過性が悪いことが知られています。さらに核酸は分子量が数千~数万程度もあり、従来の低分子医薬からすると明らかにサイズが大きいこともあって余計に膜透過性が悪いのです。
核酸の作用が発揮されるのは、mRNAが存在する細胞質ですので、細胞外で直ぐに分解され、更に細胞膜を透過できないとなると、投与しても殆どが効果を発揮できずじまいになってしまいます。
そこで核酸医薬品を語るときに欠かせないのがDrug Delivery System(DDS)となります。
核酸を外部のヌクレアーゼから保護し、さらに標的となる細胞の中に効率よく核酸を送達する技術が必要になるからです。
そこで世界中のDDS研究者がこの核酸DDS構築を目指して、鎬を削ってます。
(DDSの基本については下記のブログを読んで頂きたいです!)
今回の記事はここまでです。
以上をまとめると、
・核酸医薬品の作用機序は、標的タンパク質のmRNAからの翻訳を抑制する。
・種類としては、「アンチセンスDNA」、「siRNA」などがある。
・メリットとして、非常に特異性が高く、核酸の配列を変えるだけで様々なタンパク質を標的に出来る
・デメリットとして、細胞外で分解されやすく、細胞膜透過性が低いため、これらを解決するDDSが求められている。
核酸DDSに関してはまた今度書きたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
(薬物動態についての記事はこちら↓ もし気になればどうぞ)